【祖母の話】(第六十八夜)

 祖母が長期入院したときの話である。
 曰く付きの個室に祖母が入ったとき、嫌な予感がした。
 翌日、見舞いに来たわたしに昨日は変な女が来て眠れなかったと愚痴った。
 頭部に包帯をぐるぐる巻きにした女が、ベッドの脇に腰掛けるというのだ。それも一晩中。
 わたしの背中を冷や汗が伝ったが、缶コーヒーを飲む祖母は平然としている。祖母は視えるし聞えるが、まったく信じていないので幽霊だということが分からない。
 念のためといって、用意しておいた塩とお守りを渡すとぴたりと来なくなった。
 けれどある時は、中庭から屋上に通じるパイプに無数の手が張りついて気持ち悪いと言い、またある時は深夜、大音量で軍歌が歌われていてうるさくて仕方なかったと言った。その話を聞く前、向かいの病室で祖母と同い年の老人が亡くなったのをわたしは見ていた。
 病院は往々にしてこういった話がある。やはり亡くなる人が多いからだろうか、特に顕著なのがICUが近くにある病棟らしい。曰く付きの個室は小さな中庭を挟んでICUの向かい側だったからきっと本当だろう。