【かいくぐる】(第六十三夜)

 ふと夜中に目を覚ました。
 黒い影が、夜陰のなか揺れているのを目にした。
 それは前後に身体を揺らしている。なにかに耐えるように、なにかを喜ぶように、身体を揺らし続けている。
 父母兄と一緒にならべた布団の上、いくつもの黒い影が揺れている。
 怖くなって寝室を出た。縁側から庭に出て、月明かりにほっとする。
「なにしてるの?」
 起こしてしまったのか、母が追ってきた。
 影のことを訴えるも信じてもらえない。
 夜中におもてに出た罰として、私は翌日兄が出るサッカーの試合観戦に、連れて行ってもらえなかった。
 ひとり祖父母の家に預けられ、夕刻に家族の乗った車が事故に遭ったとしらせを受けた。
 みんな即死だった。
 黒い影が揺れていた部位が、みんな潰れていた。
 葬儀のなか、黒い影が祖父母の背に覆い被さって揺れているのを目にした。
 そうなのか。
 そうなのだろう。
 それでは、どうやって逃げようか。
 そう思案する私に向けて、黒い影が手をのばした。