【進化の福音】(第六十夜)

D・N・A !
 進化の福音が雷霆の如、ミトコンドリアに突き刺さる!
D・N・A !
 細胞の涯まで染み渡る、進化を告げる偉大なる種子よ!

 男のモノが滾る。背骨に電撃が走る。両手両脚が白痴になる。心臓が早鐘を鳴らす。脳髄がわやくちゃになる。細胞総てが沸騰する。
 そうして、進化が始まった。

 男は項垂れ膝立ちに。そしてメキメキと音を立てて背骨がめくれ上がる。脊髄が自立し、血は粘液となってしかし一滴も零れず、びちゃりと音を立てて背骨が地につく。項垂れた男の、まだ残っている首骨を進化の福音が通過する。既に見開かれた男の目は、しかし、ギョロリと剥き出しになって、やがてクルリと落ちた。かろうじて、視神経であったモノがそれを繋いでいた。そうして、男の脳天から、淫猥な形状の何かがパキパキと頭蓋を割って伸びて来た。
 芽なのである。
 その芽はすくすくと伸びて見る間に双葉、三ツ葉、四ツ葉と育って行った。芽が茎になるにつれて、男の体の養分はなくなって行き、胸には肋が浮き、腹はげっそりと凹み、両手両脚は丁度髭根のようにひょろひょろになってしまった。
 男は死に至り、しかし花は咲かなかった。
 

***この進化は失敗だった***