我が家には社会の授業で聞いた時代から伝わる銘刀があるらしい。
手にすると少しばかりの勇気が手に入る、というのが亡くなった祖父の口癖で、真に受けた僕はおぼつかない手つきでそれを構えるのだけど、一筋の勇気どころか人が人でなくなる――幽鬼にでも取り憑かれた錯覚がまとわりつくだけだった。
人殺しの時代の遺物なのだし、見てくれの平和が続く現代では異物でしかないのだろう。決して争いを好まない僕と反発するのも訳はなかった。
だからどうしても人を殺したくなったとき、刀の幽鬼を借りることにした。
何かの袋に入れて柄を握るだけで僕は人を殺せるようになった。
握りしめるだけで名も無き銘刀の逆刃が見えない呪いになって心臓に突き刺さり、僕は死ぬ。自分のために自分を殺して他人を殺せる僕になれる。
人を傷つけるのが怖くて自分を傷つけ泣き寝入りしていた僕は、刀の人格を奪いようやく人間になれた。
ようこそ戦乱期の時代遅れ。いつか僕が君なしで誰か人を殺せるようになるまで、仮初の僕を殺してくれ。いずれ自分のために憎い誰かを殺して。
自害の相棒となるまで。