【カサカサッ】(第四十一夜)

 つかさは喉が渇きベッドから腰を上げた。
 連日の猛暑でエアコンを稼動させても室内は暑く、汗が吹き出る。読みかけの本を置き、冷蔵庫へ向かおうとした瞬間――
 とさっ、
 背後で何かが落ちる音がした。振り返ると、戸棚からパンダの縫ぐるみが落ちていた。彼女は引き返し、人形を棚に戻してから冷蔵庫へ再び向かう。
 冷えた麦茶を飲み、ひと心地ついて部屋に戻ると、人形がまた、棚から落ちて床に投げ出されていた。
「何で?」地震でもないし、閉め切った室内に風が吹き込むこともない。「何で、」
 つかさがもう一度疑問を口にした、その時――
 ずっ…ずずっ……、
 丸い縫ぐるみの手が床を這い、前へと突き出された。
 ずず……っ。今度は逆の手。ずずっ。足。ずずずっ……。徐々に人形は床を這い進む。
 しかし、その動きは長くは続かず、すぐに止まってしまう。つかさは恐る恐ると手を伸ばし、人形を持ち上げる。
 カサカサッ
 その内側から、何かが蠢く物音と震動が、掌に確かに伝わった。
 ずずっ……。
 そして、手が再び動いた。