それはいつも自分の左目の視界の中にいて、身体をゆすったり、跳ねたりするとそれに合わせて半透明の物体が揺蕩う。じっと見ようとすると、視線から逃げるように動き出す。しばらく遠くを見ると、視線の追従から逃れて安堵するように、ゆっくりと落ちてゆく。この物体について眼科医に診察を受けると、医者は硝子体の中に生じる澱について説明した後、異常なしと診断したのだった。
医者には伝えていないことがある。
いつもはこちらの焦点を逃れるように動くその物体が、その時はこちらの焦点を合わせても動くことがなかった。しばらくその半透明の物体を見つめていると、それは絡まった糸くずを解き解す様に一本の糸になった。不意に目の奥に鈍痛が走る。瞬きをして視線を凝らすと、物体は右目に移っていた。
つまり、これはそういう生き物であり、誰の目の中にも潜んでいる寄生虫なのだ。少しも経たない内に、その生き物が両目で増え始めると、視界は寄生虫で満たされるようになった。
今、その群体は水晶体を叩き、突き破ろうとしている。瞼が痙攣し始め、暴れる寄生虫の動きは眼球の血管を傷つけ、視界を赤く染めていった。