【九番目の処方】(第四十四夜)

咳が止まらないおれは薬局を出ると同時に錠剤を口の中に放り込みたくなっていた。渡された説明書きをもとにアストマリ、ムコトロン、アルジオキサ、エビナスチン、ヒスタブロック、ロキソプロフェン、アジスロマイシンを飲む――処方どおりに。ツロブテロールテープは貼り薬だった。ぺたり。
最後に残った一錠は鼈甲飴みたいに鮮烈な色彩を発していた。真ん中で蛍光二色に分かれており、黄色には粒々のものが、橙の中は半透明だ。じっと見つめていると橙の中に蠢くなにかと目が合った。黒ずんで卑屈なその体を震わせ、二つの目玉をにょきにょきと伸ばし生意気におれを見上げている。説明書きによるとこの薬は即効性があるとのこと。明日も仕事だ。早く治さないといけないから飲み下した。
家の玄関口で靴紐をほどいていると、嘘のように咳が止まっていることに気が付く。こんなに効き目が早いのならば、引きはじめに医者に行くべきだった――だが、おかしい。視界が四角く、ブロック状の点描のように細かくなっていく。目玉そのものが変わっていく――、熱を持ち重くなっていた体がみるみるうちに軽くなってしまった。
確かに風邪は癒えたのだろう。しかしおれはもう、戻れない。