第伍夜

 車を降りると集合住宅が闇に沈む。
「二〇五号室村田、常連さん、鍵は開いてる。時間は六十分、終了十分前に電話する。じゃ」
「ありがとうございます」
 マミは頭をさげる。デリヘルの運び屋朝永さんはエンジン音とともに夜の町へ消えた。
 階段を昇り二〇五号室のベルを押すも返事はない。鍵は開いてた。
「お邪魔します」
 と言いドアノブを回す。玄関に靴がない。奥を伺うと男性の部屋にしては整理されている。
 でも村田さんはいない。
「マミです。ご指名ありがとうございます」
 奥の部屋に入っても村田さんはいない。
「村田さん、どこですか?」
 返事はない。どこ? お出かけ? 仕方なく部屋の真ん中に置かれた座布団の上に座りライターを打って煙草を吸う。休めるけど後ろめたいので時々部屋の主を呼ぶ。
「村田さーん」
 十分、二十分。帰ってこない。トイレにも浴室にもいない。煙草を、吸い殻山盛の灰皿に押しつける。三十分、四十分、ベランダにも押入にもいない。時間終わるよ。先週の少年ジャンプを読む。五十分、携帯が鳴る。驚いて煙草を落とす。朝永さんの呼出。落ちた吸い殻を拾おうと屈むと絡みつくような視線に気付く。
 ベッドの下に村田さんの目と目。