【骨片】(第肋夜)

――遺書――

 不幸な事故でした。
 そうして死んだ彼の亡骸が火葬され、そうして私は納骨前に彼の足首の骨片を一つ、周囲に覚られないように盗みました。
 お守りとして、私はいつも彼の骨片を持っていました。時には懐かしくなって、包み布から取り出して、彼の痕跡を愛撫することもありました。侘しい私の人生に、慰みがあるとしたなら、それだけです。
 ある時、骨片を撫でていると、尖端が指先を傷つけました。これも彼の思し召しと、私は手当てをすることもなく、ただチラと流れた血の粒を舐め掬っただけでした。
 それがよくなかったのかも知れません。指は化膿して、どんどん私の身を蝕んで行きました。指先の腐蝕は一夜ごとに指へ、指元へ、掌へ、手首へ、腕へ、肩へ、首へ、顔へ、頭へ、脳髄へと侵蝕して行き、夢十夜の過ぎる頃に私の体は澱の塊になっていました。
 ですから、きっと、私はもう、正気ではないのでしょう。
 彼が私を呼んでいる、ただそれだけが、真実として理解せられるのです。私の寂しい人生に、終わりを告げてくれるのならば、私は彼岸で彼に無量劫の感謝をしなければなりません。そうして、三千世界の彼方まで、この骨片を心臓に籠めて、参りましょう。