【瞑想~蜘蛛の糸】(第二十夜)

 ざわざわがやがや千駄ヶ谷。
 誰も知るまい雑踏の中でただ一人瞑想している私の存在を。
 認識できるモノは恐らく、ベンチに座って眠っている浮浪者か何かとでも思うだろう。しかし私は聴いている。瞑目瞑想しながら聴いている。この空間に溢れる雑踏その総て、邪念妄執百八煩悩、総てが私のこの耳に。誰も知るまい、誰も知るまい、ここに座っている私が奴らの心の表層深層中核にまで、耳を澄まして嘲笑っていることを。
 それで結構、それで結構、私は誰にも認識されないそのことに。興味も恐怖も狂喜も在りはしない。
 さらば目の前鴉の一羽、鳴いて飛び行くおかしさに、気付かぬ愚人の群の中、そこに混じることなど微塵も思わずされど空気のように私は私の存在を吸っては吐いてまき散らす。街を行く人々の群、その鼻に、その口に、その細胞に、私の一片が吸われて行く。
 そうして、誰も知るまい、誰も知るまい、知る必要など在りはしない。
 天より落ちた蜘蛛の糸、それに引かれて天まで落ちて、肉が爛れる残酷の雨となって地に帰る瞑想の私の存在を。