その日の人身事故で、救急隊員は遺体の右腕をついに見つけることが出来なかった。取り立て別の駅と異なるというほど、プラットホーム構造が入り組んでいることはなく、駅員が見つけられないような場所に紛れてしまったわけではなさそうだった。
そんな事が何度もあった。次の時には指が、その次は足が。人身事故の度に遺体の部位のどれかが、結局見つからなくなってしまうのだ。
何度目かの事故の時、その原因とされる持ち去り犯を乗客が目撃した。遺体を狙おうと集ったカラスの一羽が、その一部と思われる手首を銜え、持ち去っていくのを。
カラスが光りものを集める習性はよく知られている事だが、あるいは遺体の身に着けていた貴金属や時計を狙っていたのかもしれない。だが遺体をカラスに持ち去られるというのは、遺族や社会にとって我慢のできることではなく、周辺地域にて大規模な巣の捜索が行われることになった。
持ち去られた部位の数々は、意外に早く見つかった。駅から数キロ離れた山間の送電鉄塔は、カラスの巣が幾つも作られたコロニーのようになっていたが、「鉄塔の中ごろに人影のようなものがある」と付近住民の通報があったからだった。
電力会社の人間がそれを直接確認した時、遺体の殆どは風雨に晒され無残な姿に変わり果てていた。カラスが作ったのか、ハンガーの針金を解き解して組まれた骨組みに貫き通すように、今まで持ち去られた遺体の数々が接ぎ直されていた。
光りものの収集癖は、外敵を追い払う為であるという話がある。モザイク模様のように継ぎ直されたその不揃いの遺体は、外敵を睨む案山子のように空を見上げていたという。