ええ、ええ、私どもがオソロシく思うのは人間が恐怖に慣れてしまうことではない。人間に私どもが恐ろしいものと思わせることは格別目的ではないのです。様々に云われているのは存じ上げておりますよ。怪異だとか、害意だとか……。得体の知れない化け物……。そういったことどもにまつわる印象が人間たちにとっての悪夢なのだとしたら、むしろ私どもは人間からそうした悪夢をポカンと取り去ってしまいたいくらいなのです。そう、例えば水銀灯。あれは良い発明でした、御陰様で夜は暗いものでは無くなった……。昔、夜は暗くそこには夜盗や辻斬りの類が恐怖として潜んでいた……。古人は人を殺すソンナ人間の心理を闇の暗さに沈ませてあやかしとした……。やがて光を灯すことを覚えた現代文明は、闇の中からヒトゴロシの心理を掬い上げて解剖しその正体を心理学として看破した……。人間のオゾマシい心理の投影であったあやかしは絶滅した……。人間たちにはそう信じていて貰いたいのです。勿論我々は存在しますよ。けれども人間の方がオソロシい……。不快なものを一斉に駆逐する人間の執念深さ……。知られてはならない、夜、人が行方不明になる原因が他にあることは……。