第十六夜

会社に来なくなった同僚の部屋を訪ねた。
ドアを叩く。息を潜める気配がしたので、中にいるのは分かった。
「お前か」
安堵のような嘲るような声がくぐもって聞こえ、ドアが開かれた。
「入れ」
招かれ、部屋へ足を踏み入れる。同僚は隅で神経質そうに爪を噛んでいたが、不安げな表情と共にこちらを見た。
「お前も気づいているよな」
血走った視線が這う。
「消えちまうんだ、みんな」
心配ない、ここ数ヶ月多いとはいえ辞表もきちんと届いていると諭すが、同僚の顔は変わらない。
「でも、みんな連絡すら取れない! おかしい!」
肩を強く掴まれたので、手を背後に回し、首の柔らかいところにナイフを抉りこんだ。
絶叫をあげようとした口に布を突っ込み、ナイフをさらに捻じる。
鮮血が散る。
暴れる体をそのままにして、頬に飛んだ赤をハンカチでそっと拭った。
「もう、見えない?」
聞こえない? 分からない?
答えないそれを抱きかかえる。
会社でおとなしくしていたのはこのため。愚鈍なふりをしていたのもこのため。狩りまで一年かかった。
脂肪で膨れた指を口に含み、骨ごと噛み砕く。
やはり首の後ろで止めを刺すのが一番美味しい。
歯があたると同僚の欠片はもろく砕け散った。