祖父とはお葬式のときが初対面だった。七月のある日曜日、僕は父に連れられて初めて実家の観音寺へ出向いた。当時僕は大人しい背の低い9歳の少年だった。「ほら、おじいちゃんだよ」と親戚の誰かが僕を抱っこして丸い桶の上から中を覗き込ませてくれた。
真新しい木の香りがする桶の中には祖父があぐらをかいて座っていた。白装束に身を包んで、白い三角を額につけていた。昼過ぎ、桶は蓋をされ、二本の棒が通され、大人四人で田んぼの真ん中まで運ばれた。そこには木が一本あって、下には深い穴が掘られていた。
男たちは桶を穴に降ろし埋めた。その間お坊さんがうやうやしくお経をあげていた。夜、宴会があった。襖を外して何部屋かをつないで作った大広間で、親戚一同みんな酒を交わしていた。僕は小便がしたくなった。便所は外にしかなかった。
付き添いを頼める雰囲気ではなかったので、しかたなく一人で縁側の横の道を歩いた。便所の戸口までやって来たとき、戸口の前で白いものがすくっと立ち上がった。それは死装束の祖父だった。
僕は声も出ず尻餅をついた。そのときの傷が今でも右のお尻にくっきりと残っている。