【腐の死】(第二十五夜)

 私は瞬きもせず、じっとそれを見ていた。横たわる死体が徐々に朽ちていく様子を。
 死体は女性で、服は脱ぎ捨てられ真っ裸。腹部は緑がかり、日に日に膨張していく。まるで妊婦の腹のようで、針で刺したら破裂してしまいそうだ。
 しかし、数日すると女の身体は内側からの膨張に飽和したらしく、鼻や口から液体を漏らし、独特な臭いを辺りに漂わせる。そして、水泡が破れるともう堪ったものではない。この世のものとは思えぬ悪臭が部屋を満たし、気を抜けば嘔吐してしまいそうだ。爪や髪が剥げ、肉体が蟲に喰われはじめると、それはもう人の面影はなく、ただただ気持ちの悪い『物』だった。
 何故私はこんなものを見続けているのだろうか。こんな気持ちの悪いものを。
「忍、」気が付くと、男が隣にいた。「君がどんな姿になっても、僕は君を愛している。」
 男は私の頬を撫でる。それと同じく、視線の先の死体の脇にも逆さまの男がおり、死体の腐った頬を弄くっていた。