【結婚披露宴】 第二夜

 職場の同僚同士が結婚した。花婿は営業二課の若手ホープ、花嫁は経理課の新卒三年目。めでたい。
 お色直しのときに披露宴会場をぬけ出して喫煙所に向かうと人事課の先輩がくわえ煙草でスマートフォンを見ている。
「お疲れさまです」
「おまえか」
 先輩の横に並び一本出してくわえる。
「火ぃ貸すよ」
 先輩に火を点けられてしまう。その先輩、何か思い詰めた感じだ。しばらく二人きりでスパスパ煙草を喫む。先輩が口を開いた。
「おまえだけに言えることなんだけどな。社内では黙ってろよ」
「あい」
 紫煙を吐いて肯じる。
「実はな、昨夜、俺、花嫁の千佳ちゃんに呼ばれて一緒に五反田で飲んだんだ」
「へぇ、飲み友だったんですか」
「千佳ちゃんの人事部面接したの俺だからな」
「ああ」
 先輩は煙草を吸殻入れに押しつけた。
「相談っていうから少し飲んで話を、と思ったら飲み過ぎて、ホテルでヤっちゃった。生で」
「へぇ」
「マリッジブルーだったのかな。他の奴には言えねぇよ」
「大丈夫、俺、口かたいっすから」
「信頼してるよ」
「それにおととい、俺も鶯谷でヤっちゃいました。千佳ちゃんと、生で」
 先輩のキョトンとした顔。
「マジで?」
「ヘルペスうつされました」