【胎児の夢】 第三夜

 激しい雨の降る夜のこと。女性は、実の父親である男に犯されていた。不本意に。幾度も幾度も男は一方的に絶頂を迎え、女性はただ痛みに泣き喘ぐばかりだった。
 犯されながら、女性は思い返していた。自分を捨てた母親のこと、自分から離れて行った恋人のこと、幼い頃から繰り返され続けた凌辱のこと、実の父親を養いその性欲を満たす為だけに生きている自分のこと、思考はやまない雨のように止め処なく。
 凌辱の時を過ぎて、父親は眠りに入(い)った。
 それを見ていた女性の心にドス黒い邪念が湧き上がって来た。
「今だ。今、この男の首を絞めてしまえば、私は解放される。でもそれは尊属殺。けれど、けれど、この男のして来たことを考えれば、それくらいの自由があったっていい。私は、私には、この男を殺す権利がある。それはきっと正しいことだから。何も間違っていない、何も誤ってもいない。この男のしたことは私という人間の人生を滅茶苦茶にしたのだ。今だ。今、この男を殺さなければ、私は一生、この男の奴隷として生きるだろう。今、やるしかない」
 そうして、女性は父親の首を絞め、殺した。

――胎児の頃に見た記憶。故に私は母の胎内で踊っていたのだ。