第七夜【鐘楼の悪魔】

 小さな小さな村の平凡なある日の出来事。
 村には一つの時計台を兼ねた鐘楼があった。そして、まったく、この村に時を告げるモノと言えばこの鐘楼だけであった。
 その日、悪魔が村にやって来た。細い肉体をタキシードに包んで骸骨のような痩せこけた男の姿をとった悪魔は、迷うことなく鐘楼に歩み寄って行った。
 そうして、鐘楼の番をしていた修道士を眠らせて、鐘をついた。時刻は丁度、正午のこと。
 悪魔は十三たびも鐘を鳴らした。
 初めいつもの鐘の音と思っていた村人たちも、十三番目の鐘が鳴ると異変に気がついた。村人たちは自分たちが生きている時間が解らなくなってしまった。
 今が果たしていつなのか、十三番目の鐘の音は一体何を示すのか、みんながみんな途方に暮れた。そうして隠者のように考える暇のある奴から順番に、彼らの肉体の時間があやふやになっていった。
 一人の老人は赤子になって泣き声を上げ、若い娘は腰の曲がった老婆となり、ハゲがかった神父様は玉のような美少年になり、赤子は偉丈夫となって着ていたべべを破ってしまった。
 時間が狂い切った頃、村人はみんな墓標になってしまった。
 ゴーストタウンを見回して、鐘楼の悪魔は去って行った。