第十二夜【無いモノ】

この村にぼくがやって来たのは小学生に上がる前だった。小学校は全学年を合わせても30人に満たず、先生は生徒の家族全員と近所付き合いがあり、家庭で何が起きたか翌朝には日常まで知れ渡るような小さなコミュニティーで、子供たちと子供たちの親を除けば農業を細々と営んでいる老人ばかりの小さい村だった。中学を卒業し、隣町の高校を出て都会の大学へ進学し何度か村へ帰省して居た頃にはなんとなく村に無いモノがあるような気がしていたが、大人になってようやく確信を得た。都会で就職する者、よその町に嫁いで居なくなる者は居る。

この村には、葬式が無い。