第十四夜【みんなだいすき平間さん】

平間さんはすてきな転校生だ。

アイドルみたい、っていう子もいるけど、平間さんのほうがよっぽどいい。黒い髪がつややかで、いつもやわらかく微笑んで。頭だっていいけれど、鼻にかけたりしないのよ。
それになんだか不思議な感じがする。神秘的っていうのかな。だから帰り道でばったり出会って一緒に帰ることになったのは、嬉しいけれどドキドキしちゃう。
「この町はいいところね」
平間さんは――小学生と思えないほど大人びた口調で、それがまた似合ってるんだけど――微笑みながらそう言った。私は緊張して、そう、としか返せない。でも平間さんは気にせず続ける。
「あっちこっちに大人がいるでしょう? 安心して歩けるわ」
? そう? この辺りは昼間人通りが少ないから、帰るときは気をつけなさいってうちのママは言うよ?
だけど平間さんは笑ってばかり。だから私も笑い返した。

次の瞬間、意識が真っ暗になった。

気が付くと知らない部屋にいた。隣には平間さんがいて、見ると手足を縛られ、猿ぐつわを噛まされている。自分もそうなってると、私はすぐ気が付いた。
目の前には見たことのない男が三人、私たちが起きたのに気付いてこっちを見てくる。ぞっとする笑いを浮かべて、一人が寄ってきた。そいつは平間さんの輪郭を撫でると猿ぐつわを外し、唇をなぞった。怖くて、気持ち悪くて、でも許せなくて、私は必死に叫んだ。
男が黙らせようと私に拳を上げる――その時、
「大丈夫よ」
平間さんの涼しい声が聞こえた。
と同時に男の腕が、ぼき、と、変な風に曲がった。
そして男の首はぐぎり、と一回転し、体中に切れ目が走り、血がぶしゅうと噴き出した。ジューサーに挟まれたりんごみたいに全身が絞れて、棒になってぱたんと倒れる。
残りの男も同じように、ぼき、ぐぎり、ぶしゅう、ぱたん。
叫ぶのも忘れ、スカートが濡れてどうにもできない私に、平間さんはやっぱり笑って言った。
「ね? あっちこっちにいるんだから」