第十五夜【先回り妖精】

先回り妖精、ってご存知ですか?
彼らはとても献身的ですよ。
トイレに入れば、扉を閉めてくれる。用を足したら、水を流してくれる。
お腹が空いたな、と思ったら、食べたい料理を出してくれる。食後の面倒な片付けも、やらなきゃと思うだけでやってくれる。
そういう、何気ない動作を、全部先回りしてやってくれるんですよ。
羨ましいな、と思ったでしょう。
ここだけの話、あなただけにお譲りしますよ。
はい、今から先回り妖精は、あなたの忠実なしもべです。餌はいりません。休息も不要です。目には見えないからどこにでも連れていけますし、付いていきます。
や、お代は結構ですよ。
じゃあ、最後に一つだけ注意を申し上げておきますね。
これから、何があっても、絶対に、欠片でも、
死にたいな、と思ってはいけませんよ。
いいですか、絶対に、「死にたいな」と考えてはいけませんよ。
彼らは先回り妖精ですから。
最後にもう一度だけ言っておきますね。
何があっても、『死にたいな』と思ってはいけませんよ。