第十八夜【病める惨劇――丸山薫に――】 

懈怠けだるい午後は、心を疫病えやむ。
父は物憂く籐椅子とういすに座り、母は壊れた玩具おもちゃのように、束の間の休息をいつくしんでいる。窓の縁からそれを見ていた私の耳に、悪魔がヒソリと囁きかける。
オトウサンヲキリコロセ
オカアサンヲキリコロセ
サンダルを履いて物置きにしまってあった鉈を取り出し、私は悪魔の囁きを遂行せんと、午後の乳色の午睡に身を任す父と母とに近づいた。後手に鉈を隠して。
藤椅子に乗っかった父の肉体、その頂点、頭蓋の割れ目に目がけて鉈を振るう。脳漿が飛び散り返り血が私を染める。おもしうしなった父の肉体はずるりと藤椅子から崩れ落ちた。彼は安楽に逝けたのだろう。
向いの椅子に座った母は、事態に気付きもしなかった。余程眠りが深いと見える。私は鉈を大きく振りかぶり、背後からうなじに一撃を加えた。父と同じく血が噴出し、私の白けたシャツはもうどこにも白がない。彼女も安楽に逝けただろう。
石榴のような彼と、千切れかけの椿の花みたような彼女とを、見比べる私に悪魔が囁く。
イキテルミンナヲキリコロセ
サイゴニオマエモキリコロセ