第二十三夜【鍋】

「お邪魔します。」今日はサークルの皆で鍋会を催すことになり、会場のナベさんこと、渡邊先輩の家へとやってきた。

今年は残暑という言葉も聞く間もなく、瞬く間に秋めき、冬はもう目の前まで来ている。
「野菜、テーブルの上に置いておきますね。」オレは買い出した品を食卓に乗せ、他のメンバーが暖まっている居間の炬燵に潜り込んだ。
「あれ、今日は女神様はいないの?」炬燵を囲むのはむさい野郎の顔ばかりで、我がサークルの紅一点――海美花ちゃん通称女神様の姿がない。
「連絡が付かなかった。」連絡係を務めた部員が短く答える。何だよ、海美花ちゃんに会えるのを楽しみにしていたのに。
「ほら、出来たぞ、」落胆していると、ナベさんが湯気の立ち上る熱々の鍋を持ってきた。餓鬼のように飢えた男子学生は我先にと鍋へと箸を伸ばす。「美味しい、」
舌鼓を打ち、あっという間に鍋を平らげてしまった。
「本当に美味しかったです。出汁は何ですか?」
「ん、ウミガメだよ。」無表情でナベさんは答えた。