第九十九夜

大井町で始めた独り暮らしは、とても楽しいものでした。母も妹達も暇さえあればテレビを見ながら、大声で会話していたので、静寂を尊ぶ私とは生活の習慣が異なりました。自分の好きなように時間を使うことができ、誰にも束縛されない生活は、私を、心の底から安心させてくれました。暗闇と静寂の中で、布団に包まり、眠りに落ちることは、とても幸せなことです。テレビを観ない生活を始めて久しかった私は、基本的に音のない生活を送っていました。時折、壁越しに隣室からテレビの音が、微かに聞こえてきましたが、それは気に障るほどではありませんでした。その音は、自分以外の人間が生きて暮らしている証左であり、自分の知らないうちに世界が滅んでいないことを教えてくれました。漏れ聞こえてくるテレビの音を、一服の清涼剤のように感じていた私ですが、二年間の独り暮らしを終え、引っ越す段になって初めて気が付きました。私が住んでいたのは、角部屋でした。