姉の話(第九十六夜)

姉は好んで怪談話を読んだり聞いたりしていたものだが、あるときからふっつりと関わらなくなった。

「姉さん、幽霊でもみたかい?」

茶化しながら訊ねたわたしを余所に、姉はさっと青くなり、ぶるぶる震えると、胸元から使い込まれたお守りを取り出した。

「こないだね、夜中にお風呂に入ろうとしたときなんだけどね」

姉は顔を青白くしたまま、ぽつりぽつりと語った。

お風呂入るちょっと前まで、心霊特集見ててね。怖い怖いと言いながら見ちゃったんだ。その、数日前かな……怖い話見てるときに、左の肩が重くなってきた。普通の重さじゃなくて、お地蔵さんでも乗ってるような重さなんだよ。おまけに左の肩胛骨がすうっと冷えだした。こりゃ、まずい。そう思って、お守りを持つようになったんだよ。

それから数日して、さっき言ったとおりに懲りずに心霊特集を見てた。もちろん、肩は重いし、肩胛骨は冷えてる。それでも気にしなかったんだ。お守り持ってるからってね。

番組が終わってお風呂に向かったら、居間から

「なんだ、いないのか」

って声が聞えたんだ。

……ほら、おばあちゃん、耳も目も悪いから私を探したのかなって思ってね。なあにって大声で訊ねても、ちっとも声がしない。変だな。そう思って、おばあちゃんの布団に向かうとイビキかいて寝てる。叩き起こしたらおばあちゃん、きょとんとしてたよ。

変なこともあったもんだと首を傾げていたんだけど、ふと、声が男だったことを思い出したんだよ。ぞうっとしたね。あのとき居間には私以外誰もいなかった。私に何の用があって来たのかと思ってね……。何かあったらまずいだろう? 霊ってのは心霊番組見てると呼び寄せられやすいっていうし。だからそれっきり、見るのは止めたんだ。こうやってお守りも持ってるんだ。

けれど姉は知らないのだろう。そのお守りはとっくの昔に効き目がなくなっていることを。