みらい少女


未来に起こる大きな戦争を防ぐために
時空管理国際機関日本支部のエージェント・大野さんに与えられた使命――

“森下ナナエが秋山ヒトシから消しゴムを借りるのを阻止せよ”!

普通の学校の普通の生活の普通の同級生たちに紛れ込みながら、
今、大野さんの孤独なミッションが始まる――!

sanka

 いきなり私事で恐縮なんですが、すごくせっかちであります。関西弁でいうところの“いらち”です。なので小説を読むときも、個人的には最初の十数行が非常に大事と思っております。そこでガチっと掴まれると、流れるように物語を味わうことができるからです。
 そして、ガチっと掴まれました。『みらい少女』はすごいです。最初に時空の管理局がどう、未来がどう、と壮大な世界観を漂わせながら、の八行目。あらすじにも引用させて頂いた例の一文。

“森下ナナエが秋山ヒトシから消しゴムを借りるのを阻止せよ”!

 消しゴムです。消しゴムなのです。未来の大戦争を阻止するためのキーポイントが消しゴムなのです。「あ、これは名作ですわ」と一気に読ませて頂きました。
 学校生活でしかも男女が消しゴム貸し借りするといったらあれですよ。胸がときめく代物ですよ。そこから恋が芽生えちゃうことだってあるわけですよ。ああうん、少なくとも物語上はね! リアルなどクソくらえだ!
 それはさておき、そんな甘酸っぱいイベントが、未来の崩壊に繋がる――それを阻止するために奮闘する大野さん。だけど一生懸命が空回りして、なかなかうまくいきません。このあたりの軽快な展開が絶妙で、ほっこりとし読後感を味あわせて頂きました。
 本作は2本立てでして、1本目は大野さん視点。2本目は普通の生徒・吉田くん視点。2本目には大野さんのライバル・佐々木くんが先手を打ち、結末がドえらいことになります。「ああ…大野さんがしくじるとこうなるんだな…」と震撼すること請け合いです。
 もしかしたら私たちの今のこの生活も、大野さんの奮闘に支えられているのかもしれない…そんなことを思ってしまう、学園SF(すこし・ふしぎ)の名作です。装丁も取ってもきれいで折本とは思えないほど。ただ、残部少とと聞きましたので、お求めの時になかったらごめんなさい(そして価格もド忘れしてしまいました、ごめんなさい)。


発行:Natural maker
判型:文庫(A6) 28P
頒布価格:確認中
サイト:Natural maker 広報分室
レビュワー:世津路 章