金蚕


世界を呪う男、金蚕。満ちる悪意、哂う悪意。呪術師たちの織り成す絢爛豪華な綾。加速度的に破滅に向かう世界と、世界を呪う金蚕。
物語の一本骨子はあるものの直接語られず、周辺の沢山の欠片を寄せ集めるようにして構築されていく群像劇に呪術系アクションのエンタメ性をぶちこんだ特濃伝奇。

sanka


 これはヤバイ。最初の5ページをちょろりと読んで思わず聞いてしまった、「純文学好きなんですか?」

 のっけからそんな雰囲気で始まるのだ。つぶやきのような詩、切り取られた小景、示唆する光景の先を軽々と疾走していく悪寒のするような現実。血生臭いのも確かだし、難読漢字が多い(笑)のも確かなのだけど、所々に緩衝地帯のようなぬくさがあって、そこがまた身がよじれるほど切ない。

 大筋、「貴美島とあけ」「沼御前とヨハン」「エクリプスとバンジャマン」「趙海と麗花」の4組に金蚕が絡みつき、崩壊へ奈落へ疾駆していくというのが本道なのだけど、基本あまりそこ重要じゃない。辟易するほど濃厚な頽廃と悪徳と切なさが交錯する酩酊感を覚悟して浴びるほど飲みまくる、そんなヤバさ。

 純文学といったのは当初カフカの「変身」をふと思い出したのと文章の構成がそれに近いなと思ったからなのですが、しかし話ははっきりとエンタメです。こういう感じの作家さんもっと出てきて欲しい。本当にこういうの大好物なのです。純文学をかじった人のファンタジーや伝奇は何かが良い意味でずれてて美味しいことこの上ない。

 菊池秀行「魔界都市ブルース」よりは不条理文学へ近いのに、話立てそのものはちゃんとエンタメにいる不思議な読後感。結末もちょっと不思議だったなw 金蚕が回天していくところはかなり美味しくむさぼり読みました。

 私は貴美島-あけ推しというかあけちゃんがもう切なくて可愛くて、ホームでぬくぬくと守られていたところから根腐れかけた腐女子のハートをPoint-to-Pointで滅多打ちなんですが、キャラ萌えの要素にほのかなエロスまで詰め込みやがって畜生……あと、舞王の最期とか床転げるかと思った。萌えで。
 
 ページ数に対してお値段も手ごろ。伝奇好きな人には絶対お勧めなのですが、実は純文学畑の人に読んで欲しいと思っています。


発行:浮草堂
B5・172P・300円
サイト:キクムラサキ式

レビュワー:小泉哉女

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