いつか望んだ自由の前に


──流感で一週間も会社を休む羽目になった山本孝太は、全快と共にふと悪戯心を起こし”誰でもない”自分として旅に出た。巡り着いたその場所は。
(※作者様ブログより転載)

sanka

生体認証システムが進化し、すべての個人情報が“意味づけ”されあらゆるサービスに適用されるようになった世界。サラリーマン・山本孝太は風邪で欠勤したのをきっかけに、かねてから考えていたある思い付きを実行する…というのがストーリーライン。

物語自体は軽やかにサクサク進むのですが、それゆえに描かれる近未来のあり方が実に生々しく感じられ、山本くんの“思い付き”の暗澹さが浮き彫りにされています。表題の“いつか望んだ自由”は、実は現代に生きる社会人の誰もが望んだもののはず…それだけに行きつく先の絶望加減が本当にリアルに迫ってきます。

ただ、それだけでなくてきちんと手が差し伸べられる最後で本当によかったなぁと思いました。ある程度の“不自由さ”を残したほうが人として健全なのかも知れません。自由はほしいけど究極の自由は身に余るのでちょいがんじがらめ風味で…あれそれなんて贅沢? なんて考えさせられてしまう、短編ながらも味わい深い一作です!


発行:HPJ製作工房
判型:新書版 24P
頒布価格:100円
サイト:雑記帳
レビュワー:世津路 章

前の記事

フェル・マーの経理さん