『勇者のいない世界で』シリーズ

arasuji
「あたしは、魔王だよ。破壊と殺戮が仕事だ。
ゲームみたい、とか思うかい?
決定的に違うよ。ここでは魔王が勝つのだから」

 飛鳥さくら――
 異世界では、勇者すら殺戮し尽くす、最強、最低、最悪の無敵の魔王。
 現実世界では、魔王のごとくエキセントリックに振る舞っているが、小杉南高校1年B組に在籍する、結局はフツーの女子高生。
 このたび新部活を立ち上げ、部室争奪戦が始まった!

 異世界で殺せば殺すほど、現実世界が姿を変える「世界のしくみ」の中で、戦いは、勇者はいないが魔王の魔力も及ばない現実世界の、ちっぽけな範囲に比重を移していく。得られた仲間とともに戦う彼女は、邪悪で強大な「魔王」のままでいられるか?

(※ヒロイン☆ふぇすた2紹介文より、一部追記の上転載)

テキレボWEBカタログにも掲載あり)

sanka

kansou
 なんと魔王が女子高生?! というキャッチーさに一本釣りされました。転生ファンタジー全盛のこのご時世、高校生が勇者パーティに、というのはよく見かけますけども、女子高生が倒されるべき魔王で、さらに“勇者のいる”世界と“いない”世界をいったり来たりする…という捻りの効いた設定がなんとも素敵です。本編の語り部・友納くんはクラスメイトにして魔王の飛鳥さんのこの秘密をひょんなことから知ってしまい、彼女について異世界に行ったりするのですが…帰ってくると、現実が何だかおかしなことに。捻りの効いた設定、で終わらせない捻りの効いた展開に、するするページをめくってしまいました。
 1巻は友納くんと飛鳥さんの関係構築と舞台設定の紹介がメイン。魔王らしく傍若無人な飛鳥さんですが、時折のぞかせる孤独感がたまらなくキュンとさせてきます。そんな彼女と友納くんがあるきっかけでクラスメイトたちとポーカー部を結成するに到り、そこからの物語が2巻で描かれています。ライトノベル風味、とのことで、魔王・飛鳥さん以外のキャラクターたちも個性的。孤立していた飛鳥さんが、彼女なりのぶっきらぼうなやり方ながらも、友納くんや仲間たちと同じ時間を過ごしたり、障害に立ち向かっていく姿は胸がじんとするものがありました。そして友納くんもまたいいんです、これが…。平凡と称される彼は成り行きで魔王の“参謀”になるのですが、よくあるカマセ臭MAXの三流参謀とは違い、物申すときには申す、一本筋の通った参謀です(個人的には「飛鳥さん。今の戦い方は、よくない。確実にトラウマになる」が一番すきです)
 魅力的なキャラクターたちは勿論、彼らの活動の場であるポーカー部でのやりとりや、穏やかな学校生活を脅かす“敵”との対決、また随所に仕込まれた小ネタなど、読み応え抜群です! 2巻のラストは不穏な幕引きで、完結巻である続編が気になりすぎます(あんだけシリアスな雰囲気で終わったのに…水着回があるってどういうことなの…)
 一風変わった奇妙で新しい魔王譚を、ぜひ!

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発行:DA☆RK’n SIGHT
判型:A5版 
頒布価格:1巻:300円 2巻:400円
サイト:DA☆RK’n SIGHT – よしなしごと
レビュワー:世津路 章

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