el.

arasuji
ほっそりした肩の後から、巨大な白い羽根が覗いている。──「天使」の義体。「ガブリエル」
ヴコールはじっと階下を見ながら、天使の姿を傷だらけの氷上に思い描いた。「レニングラード(1988)」
ほんとうに残酷だな。人前に姿を現すときは、相手が最も対面を望まない人間の外見を借りてくる。「羽」
ガン=カタ・スタイルで戦いアヴァター世界唯一の『魔法』を使う、鋼鉄の羽根を持つ天使。「ハロー、ニュー・ワールド」
(作品帯より)

kansou
天使をテーマにしたアンソロジー。
白くやわらかい地の表紙に、降る羽根。そしてタイトル
シンプルだけれど静で美しい表紙だ。

帯を読んでいなかったのもあるけれど、ラノベというよりも少女小説寄りのふわふわした物語を想像していた。(過去形)
180度違った。
SFともファンタジーとも言える硬派で、ずっしりと重い4編。
硬派と言っても読みにくいわけじゃない。実際、移動中、休憩中に読み読みして2日かかってないのだ。
しっかりとした文章。負けない内容。ずっしりと胸にくるものばかり。

『ガブリエル』義体を巡る物語。4編中最初の作品で、まず頭を殴られたような気分。

これが天使。ふわふわだけど、ふわふわなんかじゃない!
主人公の通ってきた道、宗教、義体というもの。
しっかりと組み合わさり、偏ることなく、エピソードの中に組み込まれている。
それでも振り返れば、まだ(比較級)軽妙だった。

『レニングラード(1988)』ソ連時代末期。まだ幼いフィギュアスケーターと見守る老人の物語。
時代に振り回されながら、数奇な運命を…って陳腐な表現になってしまう。
共産体制下では生きづらいだろう奔放なリュドミーラ。
リュドミーラに惹かれるヴコール。
「あたしを見つけたの?」 これがある意味全てだろう。

本筋に必須な事であるがヴコールの年齢とそれを書ききる筆力もすごいと思った。
自分の年齢より遥かに上の年齢を描くのはとても大変…。それが見事に。
主人公ヴコール、どこかくすんだ街、雰囲気。
だからこそ生きるヴィヴィットなリュドミーラ。
そして、彼らの『何故』は全て繋がったラストの中に。

『羽』かつての人気バンドと、ファンの二つの視点から語られる「彼ら」の物語。(きっと)

ファンタジー色が強い…と言えるか。
何処を切り取ればネタバレにならずに感想を書けるのか(汗)
声も容姿も。あぁ、そういうこともあるのかもしれないと思わせる。
…………って、ほんとに触れそうで何も言えないっ。
「彼ら」は「彼ら」であり、想いであり、記憶であり、現実であり、
幻想であり、人であり、人でない。
きっと。
……いつか「彼ら」に出会うとしたら私は何を見るのだろう。

『ハロ-、ニュー・ワールド』現実を護るため、アヴァターを駆使し、仮想世界で戦う天使の物語。
トリを努める、がきり、と重々しい音のしそうな作品。
世界のシステムが少し馴染まない、と思いながら進めたのは本当だが、些細な『馴染まない』など吹き飛ばす迫力と細かさに持って行かれたのもこれまた本当だ。
偶然など何処にもない緻密さ。戦闘のダイナミックさ、スピード感、万能ではない万能さの『魔法』はアヴァターが活躍する世界ならでは。

上手いってこういうことかー! と。
最後の最後までやれた感まで付きまとう。
読み終わったあとは、ただ、溜息。

どの作品も、テレビもラジオも消して、じっくり浸りながら読む方が良いと感じた。
それくらい、重厚で美しくて……浸らないと時々置いていかれる。

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発行:Wilhelmina
判型:文庫(A6) 138P
頒布価格:600円
サイト:Wilhelmina
レビュワー:森村直也

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