めいとーでん 蜘蛛之巻

arasuji
2013年6月に秋葉原ACT&B、8月に新宿シアターサンモールで上演された「めいとーでん 鬼切之編」の原作小説。
タイトルを「蜘蛛之巻」に変更し、ほぼ台本に近かった原作を小説という形にリメイクしたものです。
数ある名刀を擬人化した、時代劇にみせかけて実際は現代SFという謎仕様。
サンプルはピクシブにあります。 
笑いあり涙ありの舞台を、小説の世界でお楽しみください。

(第4回Text-Revolutions Webカタログより転載)

 


kansou
圧巻。その一言に尽きる。
擬人化もの、ましてや名刀が主役の本を読むのは初めてで、読書前は読み終えられるかどうか不安があったが、気が付けば一気に読破した。

共に生まれ、時代の波に飲まれ、生き別れてしまった兄弟刀・鬼切と蜘蛛切。現代まで生きながらえ、行方が分からなくなった弟・蜘蛛切を何百年と探し続ける、兄・鬼切。物語はそこから始まる。

平安から現代まで、主を変えながら、時には仲間、時には敵だった名刀達の手を借りて、鬼切は弟を探す旅にでる。しかし、見つけ出すどころか生きているのか死んでいるのかも分からいまま、事態はより深刻に複雑に絡み合い、クライマックスへと続いていく。でも、歴史小説のようで、その実、現代ファンタジーでもあるので、歴史小説が苦手な人でも、すんなり物語に入っていけるだろう。それぐらい、登場するキャラクターの書き分けが素晴らしく、とても魅力的だ。

元々は舞台の脚本だった、という藤木さん。しかし、小説に書き直されても、舞台ならではの構成は変わらず、状況や風景描写によって台詞は際立ち、本当に舞台を観ているようだった。導入から畳みかけるような展開、山場。本当に圧巻で、ラストは「どうにもならない」想いと「報われてよかった」と相反する気持ちで涙がこぼれそうになった。それを踏みとどまらせてくれるのが主役以外のキャラクターで、鬼切もまた彼らによって救われ、再び果てしない時代を生きていこうと前を向いていく。

人とは違い、悠久の時を超えてあり続ける日本刀が見てきた時代、そこを生きてきた人達、そして持ち主(主)への想いがギュッと濃縮されていて、胸が痛くなるような作品。刀剣乱舞ではない、オリジナルの名刀の物語。読者はきっと、日本刀に対する目と意識が変わるだろう。

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発行:猫文社
判型:A5 104P
頒布価格:600円
サイト猫文社 分室
レビュワー:ヒビキケイ