千刺万紅


記者、文学少女、娼婦、女学生、代行者、郵便屋、研究員……そして、やせっぽちの少女。
これは、「彼女たち」に関わる機械仕掛けの何でも屋シスルの、長すぎる後日談。
砂紅果香(高村暦)女史との共著で送る、SFファンタジーシリーズ『終末の国から』の短編集。
(サイトより転載)

sanka

まず、美しい色合いの装丁に惹かれました。
遊び紙にも、各話のサブタイトルにも、本の隅々にまで、作者さんたちのこだわりと作品への愛が感じられます。
本の中身は一人の男性を主役に据えた短編集で、笑いありシリアスあり色気ありアクションありSFありファンタジーあり、
様々な要素が詰まった、表紙からは想像もつかないほど色とりどりの内容です。
シンプルで引き締まった色合いの表紙は、それらの物語に、より深い色合いを与えているのだと、読み終わってから気づきました。

主人公は、スキンヘッドに分厚いミラーシェードというちょっと変わった出で立ちの青年、シスル。
サイボーグの体で、どんな状況も飄々と切り抜けていく彼が、たいへん魅力的です。
一話ごとに違ったヒロインが登場し、彼女たちはシスルと関わったのち、それぞれの運命をたどっていきます。
つまり、シスルを狂言回しに据えた、少女たちの物語でもあるのです。
生身の彼女たちの鮮やかな生き様のそばを、サイボーグの青年は飄々と、ときとして優しさを覗かせながら通り過ぎていきます。
そのすべてが、ハッピーエンドでなかったとしても。

物語のほとんどはあえて謎がのこる作りになっていますが、謎を書き切ることが本質ではないので、これでいいのだと思います。
節々に潜められた謎こそが、彼らが生きる“終末の国”という世界の魅力にもなっています。
『君は虹を知らない』等、同サークルの同世界のお話も併せて読むのがお薦めです。


発行:シアワセモノマニア
判型:A5 128P
頒布価格:800円
サイト:シアワセモノマニア

レビュワー:

前の記事

幻想博物館

次の記事

灰の公園