ねことしあわせ(3)

猫アンソロジー「ねことしあわせ」から、短編4本をピックアップレビュー。

『お嬢と私』
2ページの短いエッセイ。
猫と暮らす者にかならず訪れる、「別れ」がテーマである。
とはいえ、特別なことは何も書かれていない。ありきたりな、というより、全ての飼い主が覚悟しておかなければならない、普通の、リアルな「猫との別れ」描写が、「私の体験記」的に続くだけだ。

でも後半。作者は美しい文章と、情感豊かな描写で、「私の体験記」を、文芸作品に昇華させてしまう。

最後の22行分。私の胸はきゅうっと切なくなりました。

『でんしゃのねぐら』
作者の本領である「鉄道」ジャンルの「猫」小説。
淡々と実録風に綴られる「逸話」がリアルで、何も知らなければ「へえ、本当にそんなことあったんだ…」と思ってしまう。堅い文体中に突如あらわれる「ニャン号」なる名称が微笑ましく、ストーリーには、抑えめ文章ゆえの静かな感動もある。更なる推敲、加筆を加えれば、これは一冊のとても良い本になるのではないか。

「ねことしあわせ」というアンソロジーの、間違いなく「目玉」な佳作。
ついでに、富田みかという個性豊かな作者の世界に触れる最初の作品としてもオススメしたい。

『えあねこ』
これは意表をつかれた。オチに対してではなく、物語そのものに対してだ。
むりにジャンル分けしようと思えば、サイコスリラー??
でも、ちゃんと猫小説になっている。執筆に当たって、作者がどういうスタンスをとったのかが見えないだけに、読み手はハラハラしながら読み進めるしかない。
「お譲と私」とは対極にある作品。私にとっては少なからず驚きがあり、面白かった。それと… これを冒頭一発目に持ってきた編集サイドのセンスも…すごい…。

『子猫のノーラ、町へ行く』
岡見眞琴という作者は、自分の世界をもっている。
いつものあのイラストで、あのキャラで、いつも期待通りの物語を展開してくれる。趣味に合う合わないは別として、やはり本作も、立派な岡見ワールド作品。
あ、猫が手押し車で猫缶買いにいく訳ですね。
もう、それだけでいいじゃないですか。
短いこともまた、一枚のビジュアルを脳内ペインティングする作業に一役かってくれてます。
かわいいイラスト好きの向きにオススメ。
惜しむらくは、今回、字だけだったこと。挿絵も入れてほしかった…


発行:StrayCat
判型:B5 76P  
頒布価格:600円
サイト:StrayCat
レビュワー:大和かたる

前の記事

トキシン