トキシン(3)


文学フリマサークル参加10周年記念アンソロジー

収録作品
泉由良 「ルルカの点描画」
牟礼鯨 「同毒療法」
恣意セシル 「ギフト」
山本清風 「紺青の別れ」
高村暦 「想像の間隙」
添嶋譲 「ネイビー・ブルー」
suwazo 「聖料理人」
風合文吾 「 虫食ム脳髄」
IS@M 「不可視の猫達」
松本環 「満月ニ毒ヲ飲ム」
星いちる 「自殺薬」
伊織 「海ウサギの角」

ゆめゆめ、魔が差したりしませぬように…

sanka

■泉由良さん「ルルカの点描画」。
本当の愛情が描かれて切ない。愛もまた毒物の一種なのだという暗喩を感じる。内容とすっきりとした文体にとてもピュアなハートを感じました・・・
■全く同じテーマが2作。肉体性への不安、畏怖といったところだろうか。牟礼鯨さんは民話風に淡々と。恣意セシルさん「ギフト」は少年の絶対的な孤独と怜悧で透明な観察眼が「ライ麦」ホールデンを思い出させる。悪くない読後感もまた。毒を内包しながら人間、心への信頼を感じる。
■山本清風さん「紺青(プルシアンブルー)の別れ」。
これでもかというほどの毒物の知識が不自然さなく綴られる。男の心情が複雑で繊細でだからこそリアリティがある。毒にも薬にもならなくない者こそ毒も薬も持つ。
■高村暦さん「想像の間隙」。
ここで「毒」が象徴するのは「戦争の災厄」なのだろう。誠実で内省的な哲学。作者の生きる姿勢が伝わる。戦争への怒り、悲しみが押し付けがましくなく訴えかけてくる。
■添島譲さん「ネイビー・ブルー」。
ここでの「毒」とは「人の悪意」。いじめられっ子の主人公の言動にすごく共感してしまう。そして主人公の出した結論と、ある人物の隠し続ける事がいい。とても大事な真実は、自分だけの宝物なのだ。
■SUWAZOさん「聖料理人」。
ここでの「毒」は「悪」。いたいけで無邪気な者への限りないやさしさ。不幸への悲しみ。己の中の悪を自覚しつつ、この世の「悪」と「不幸」への怒りを神に向ける・・・
■風合文吾さん「虫食(ムシバ)ム脳髄(ノウズイ)」。
ここでの「毒」は「欲望」か。退廃的なほどの人間存在への絶望と失望を感じる。ただ作者が摂理を信じる事に救いを感じられる。
■松本環さん「満月ニ毒ヲ飲ム」。
ここでは「毒」は「救い」として扱われている。「災いは誰の上にでもふりかかる」。苦しみからの救済、願いの成就は、心からの愛情なのだ。それが己の滅びだとしても・・・
■ISAMさん「空想小説 不可視の猫達」。
ここでの「毒」は「犯罪心理」。哲学と虚無が結びつくとこのような犯罪が起きるのだろうかと考えさせられるリアリティあるSF。
■伊織さん「トキシコン ラクヌンガ 海ウサギ」。
この世ならぬ場所で交わさる発展の仕方もこの世離れした「毒物」そのものについての会話。夢を匂わせながら、作者は夢によってこの世とつながっているのではないかと思わされる・・・


発行:兎角毒苺團
判型:B6 122P 
頒布価格:800円
サイト:兎角毒苺團
レビュワー:しあ

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