どろぼう先生


流れ者の教師にして事務所破りのプロ・因幡先生は、この春から東北の日本海沿いの港町にいる。
高校の教壇に立つ先生は、鶴坂真冬という三年生が居眠りばかりしているのを気に掛けていた。同僚の教師たちの評判も悪く、このままでは成績が危うい。
そんなある日、先生は鶴坂が居酒屋で遅くまで働くのに出くわす。帰りを待ち伏せて話を聞くと、家が貧しいので進学の資金を貯めているという。
「大学に行って、それで…できたら私、学校の先生になりたいんです…私みたいな子のこと分かってあげられて、励ましてあげられる先生になりたいんです」
納得しつつも彼女のプランに危うさを感じた先生は、別の進学手段を勧めるのだが………。

教師と泥棒を掛け持つ奇妙な男が紡ぐ、か弱き者たちの「闘い」を描いたドラマ。

※公式サイトより転載

sanka

地味などろぼうを繰り返しながら、日本各地を転々とする地味な代替教師・非常勤講師の因幡先生。
地味な港町の学校で、生徒の中でもこれまた目立たない地味な少女、鶴坂さんの地味な異変に、先生はふと気付く。

生真面目で頑な彼女、そして彼女と打ち解けていく先生を追っていく内に、彼女が抱える事情と心情に、読んでいる自分も少しずつ近づける確かな感覚がある。
よくある話でしかないのかも知れないが、彼女の事情が自分に似ていたせいもあるだろう。
ただ、そうでない人が読んだとしてもきっと、こうして距離感に気を配りながら親身になろうとする因幡先生の姿とその物語に、抵抗を覚える事無く入っていけるだろう。

(作中の文章や挿絵のシルエットから、『因幡先生』はそうお歳を召してらっしゃらない筈だが、どうしても田島先生ご本人の姿を思い浮かべてしまうのは、はてさて如何なものか)

表題から想像し得る様々なフラグや、代替教師の先生に差し迫るタイムリミットに、ああ危ういなあ危ういなあと思いながらも、彼女の事情と先生とがどう「闘い」を繰り広げるのか、最後まで緊張を保ちながら読み進めていけた。

鶴坂さんがいつか最後の真実を知った時、きっと彼女は悲しんだり怒ったりするかもしれない。
しれないけれど、それでも一周回って先生の真意を汲んで、ほんの少しでもありがたく思ってくれればいいなと思う。
最終的にヤツが盗んでいったのは、とんでもないコトになりえるモノでしたから。

受験か就職か、高校時代にきちんと真面目に本気でしっかり悩んだ事のあるオトナに、ぜひオススメの一作。


発行:新嘲文庫
判型:A5 50P
頒布価格:200円
サイト:新嘲文庫
レビュワー:トオノキョウジ

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