迷宮百貨店にて


日々姿を変える不思議な店を舞台にした、ちょっとした冒険と若い恋路の物語。
夜の迷宮に迷い込んだ少女と、その手を取った男に纏わるほっこりファンタジーです。
(創作文芸見本誌会場HappyReadingより転載)

sanka

混沌としていてちょっと不安を誘う、けれどつい細部まで見入ってしまう、そんな不思議な表紙が目を引く一冊です。
そもそも、タイトルからしてたまりませんね。迷宮百貨店。略して迷店。
それこそ、ある種のゲームに登場する「ダンジョン」が、丸ごと店になったような。そんな不思議な店を舞台に繰り広げられる物語は、一人の少女が体験した小さな冒険であり、小さな恋の物語。

本を開くと、まず目に入るのは、舞台となる迷宮百貨店の異様な姿です。
客にものを探させる気があるのかないのか、日々姿を変える迷宮。そこに揃えられた、時にグロテスクで時に幻想的、そして時には「商品」であることに首を傾げずにはいられない商品たち。それらは、世界すら越えたあらゆる場所から集められたものだといいます。
誰が、何のためにこんな店を? そんな疑問を覚えながらも、それに答えてくれる人は誰一人いません。会計をしてくれるのは、一体どうやって動いているのかもわからない謎の蔦、商品を迷宮の奥に運ぶのは、不思議な人の形をした「何か」なのですから。
そんな不思議な迷宮百貨店を眺めているうちに、気づけば、自分も主人公の少女、ミオと一緒に迷宮に潜っていることに気づきます。どこに何が置かれているのか。この先には、どんな仕掛けが待ち受けているのか。次から次へと描き出されていく迷宮の姿は、一度でも知らない世界の冒険を夢見たことのある人ならば、わくわくしないわけがありません。
そして、誰も知らない迷宮の裏側、闇の奥を覗いてしまった時の、ぞくりとした感触。この恐怖と緊張の手触りもまた、冒険には欠かせません。

けれど、少女ミオの冒険は、実は一つの「恋」の始まりでもあったのです。
そう、冒険には、当然ヒーローがつきものですから。
迷宮の奥で危機に陥ったミオの前に颯爽と現れる、これまた迷宮と同じくらい「不思議」な男ロセロ。彼の登場から、迷宮百貨店は、少女の小さな冒険の舞台というだけではなく、奇跡にも近い形で出会った少女と男を結びつける、大切な場所になっていきます。
そうして生まれた恋心が膨らむ過程と、二人の間で交わされた思いの結末は、是非二人と一緒に迷宮百貨店の奥の奥まで足を踏み入れて、確かめて欲しいと思います。
甘酸っぱく、見ているこっちが気恥ずかしくなるような、けれど、どこまでも清々しい恋心。
恋というものは、女の子を強くするのだな、と。確かにほっこり暖かな気分になれる、素敵な恋愛ファンタジーです。

しかしロセロ氏は色々卑怯だと思います。かっこよく、しかも所々弱みのある男性というのは、極めて卑怯だと思います。ミオが羨ましいです……。


発行:むしむしプラネット
判型:A5 56P
頒布価格:200円
サイト:むしむしプラネット
レビュワー:青波零也

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