田園の中に、旧い家々と雑木林の丘陵が点在する田舎町。
中学校からの帰り道、田野倉みずきはぽつりと頬に触れる水の気配を感じる。
「あれ?」
眼鏡の奥のどんぐりまなこをきょとんと見開いたみずきに、隣を歩いていた近野さゆりが、首をかしげながらこちらに顔を向けた。
「どうしたの?」
「あ、うん――なんか、いま、ほっぺたにぽつって――
うー……蝉のおしっことかだったらやだなあ……と頬をさするみずき。
だが、急に強く降り始めた雨に、ふたりは雑木林の中に続く稲荷神社の石段を駆けあがる。
夕陽がさしたままの空からきらめくシャワーのように降り注ぐ、お天気雨――きつねのよめいり。
神社のお社の裏で雨宿りをしたみずきたちを待つ、ちょっと不思議な黄昏の時間。
田舎町を舞台に、女子中学生ふたりを主人公にしたふんわり百合短編。
※サークル公式サイトより抜粋
明るい怪奇談。一文が短くてすいすい読めるところは今回の戦利品の中で一番。冒頭を少し読めばどういう展開を狙ってるのかが匂ってくるのはとても親切。女の子の仕草や思考にやや無理があるけど、読みやすさと匂いが補ってくれる。
この方はもっと女性(女の子である必要はない)を研究すれば、もっともっと狙い通りの作品に仕上がると思って注目してるのですが・・・もしどうしても女性を書く手がかりが想像しかないなら、いっそ男の子を主役にして、思いっきり男の子目線で女の子を書けばいいと思いますよ。
発行:懐中天幕
判型:A5
頒布価格:300円
サイト:LITTLE RIDDLE/懐中天幕
レビュワー:えりふみ