あるアパートにて、


ある都内の古びた訳ありアパートに住む、住人たちの日常を切り取った小説アンソロジー。
住人の喜び、悲しみ、発見、愁い等が交錯するアパートで、
それぞれが関わり合い、また引きこもり、このアパートで生きていく。
さまざまな場で活躍する豪華作家が集結した、珠玉の小説十篇を収録。
住人たちの私生活を、ぜひ覗きにきてください。

(主宰ブログより引用)

参加者です。
まずこのアンソロどうやってやったかというと、
必ずほかの住人と接点を持たせる必要があったので、
人物表を提出して、
それから小説を書いていくという感じでした。
文量規定は8000字以上だったかな。
個々にメールのやりとりをしたり、Lumiereさんを通してやりとりをしたひともいたようです。
わたしは追い詰められていたので人物表も三行くらいしか書いてなかったし、全然ほかの方とコミュニケーション取れなかったのが反省点。
読んでみたら短い作品と長い作品があって、
このいろいろ楽しめる感じがいいなって思いました。
参加者なんで、やっぱ、じぶんの作品のキャラが別のところに出て喋ってるの見るの、楽しみでした。

感想を、書きました。
まだ読んでないよという方へ
ネタバレがあるかもしれません。
ご購入を検討されている方へ、
この感想は役に立たないかもしれませんが、
ひとつ言えることは「どんなに鳥久保さんが好きでも、最初に読まず、鳥久保さんの作品はすべての小説を読んでから読んでください」
これが、読んだ人間からのメッセージです。
寄稿者の方へ
万が一、気に入らないことが書いてあったらすみません。

順番に読みました。
このアンソロジーはなんか並び順も意味を持っているような気がして。

●夏の雪と夏のはなし/秋月千津子さん
巻頭で、読みやすくアンソロのつかみとして完璧という小説。
雪というキャラクターは
ひとが寄ってこなそうな人物だけど、
夏というキャラクターがいるおかげで
コミカルな面が出て、読者を離さない。
天才と凡人の対比、
芸術をやっているがゆえの苦しみが
ふたりの視点からかかれているけれど、
重くなりすぎていない。
人物の造りがうまいからかもしれません。
くすぐったくて、青春時代を思い出す心地のいい作品。

●天使の飼育/伽十心さん
題材的にとっつきにくいかな? と思ったんですが、読みやすい。ぐいぐいと引き込まれました。
安定した描写力と、独自の世界観があります。
ミケがミケになる前に、どんな女の子だったのかわからないけど、
最後、羽を燃やすシーンのところで
「熱いね」とミケが漢字ではじめて漢字の台詞を吐いているので
これで天使をやめて人間になったということを表しているのかなぁとか思いました。
この主人公の圭介も絵を描いているひとで、
秋月さんの話とは違う葛藤があって面白いと思いました。

●氷雨の子どもたち/泉由良さん
たぶん、こちら側が「おじゃましまーす」みたいな感じで
覚悟を決めて読んだほうがいいおはなし。
独特の言葉遣い、美意識がしっかりしている作品。
読んでいると眼が幸せになる。
読書っていいものだとこの話を読んで新たに思いました。
読んでいて、何かを教えていただいた気になる作品。
最後の一行ってこれ・・・・・・
ぞくっとしました。

●サマーデイズ/サマーナイト 秋山真琴さん
由良さんの作品と双子と言えるし、
独立した作品としても読める。
みんな大好き高峰さんの作品。
ひとにものをおすすめするのがうまい高峰さんなので
ラーメン屋の描写が秀逸。小説の飯テロである。
つまり、キャラクターにあった描写ができる力って大事だと痛感しました。
あと「芙蓉のことを文学だと思った」
思わず波線を引いてしまった。
秋山さんのこういう現代舞台の小説すごくいいですね。
こんな風にことばを扱ってみたいものです。

●飛行夢 未青藍さん
タイトルがおしゃれですね。
独特の文体だなと感じました。
ほかのひとの登場人物をうまく使いながら
話が展開されていきます。
ティーン小説風かな? と感じたので、
そういう系が好きな人にはおすすめ。
ラストのシーンがよかったです。

●日常の闇底 白河紫苑さん
すごいなぁとふたつの意味で思いました。
まず、前半パートの入り。
よくこういうことを書こうと思ったし、
鍋を食べているだけなのに面白く書けるのはすごいなと
楽しく読みましたが、
後半パートの切迫する感じに正直、鳥肌が立ちました。
見習いたいです。

●常世の骨 久地加夜子さん
結構好きな作品です。
ところどころに凝った表現があって、
よかったです。
あと、絵に関する具体的な描写があって、
読み手に親切というか、
想像の手がかりを与えていただいていて、
内容もすっと入ってくる話でした。

●今夜、繭を破って 霜月みつか
じぶんの作品です。
感想ではなくあらすじですが、
「恋人を失くした男が彼女との思い出と、彼女がいないという現実の中
じぶんがどうやって生きていくか、先に進むとはどういうことか
いろんな人との出会いの中変化していくとい」という話を書きました。

●欠けた月に君を思いて 秋山写さん
読みやすい。
そして、写さんはフォトアーティストであるし、
この本の表紙を創ったすごいひとだし、
文章がめっちゃうまい。ずるい。笑
短い話ですが、一旦まとめて、
最後の話につなげるという役割としても優れた作品。

●The last painting 鳥久保咲人さん

読む前に深呼吸をして。
咲人さんの話を読むときはいつも覚悟を決めて読みます。
とりあえずすごい。
適切な長さの小説。
夢中でページを捲りました。
「面白い」なんてことばで片付けたら申し訳ない。
でもほんとうにいろんなことを考えました。
この話は「ゆめうつつ」ということばがよくもわるくもあてはまるなと漠然と思いました。
我々はこの話を創るために集められた、というのと、
なんでアパートアンソロなんだろう、
「アパート」でなくてはならなかった意味みたいなものが読むとわかる。
いろいろとすごい小説。
ほんとうに唸った。
なんで、これから読む人はどんなに鳥久保さんが好きでも、最初に読まないでほしい。
もしくは最初に読んでも、全部の作品を読んでから最後にまた読んでほしいです。

つたないですが、以上です。


発行:Lumiere
判型:A5 376P
頒布価格:1200円
サイト:屋根裏の隠者からの手紙
レビュワー:霜月みつか