マー・フィーの法子さん


 「ええ、バカバカしいにも程があるでしょ? でも、報酬(フィー)を夢見て手数料(マージン)を割いてくれた人達の思いは、本物だわ」

浪人生江戸屋義康(えどやよしやす)の元に、姉法子(のりこ)からの電話が十年振りに届いた。彼女の営むビジネスマッチングサービス『ハートキャッツ江戸屋』で、人の縁が織り成す社会を垣間見た義康だったが、膨大な額の報酬が動くその裏で、姉が企む計画の存在を知る。

公海上の自称国家ハインリヒ公国とは。国税局が嗅ぎつけた『ハートキャッツ江戸屋』と姉の真意とは。

姉への想いに戸惑いながらも、義康は謎と謎の間隙を走り出す。これは、人生に最高の手数料と報酬(MARGIN & FEE!)を求めて戦う人達の、ビジネスアクション・ラブファンタジーである。(公式サイトより)

sanka


ライトなだけじゃない、爽快なビジネスアクションノベル。
視点は常に、法子さんの弟に寄り添う。しょっぱなからチェーンアクションをかます法子さんという魅力あふれる人物に、弟くん同様目が離せなくなって、いつのまにか物語の中にぐいぐい引きこまれてしまう。
ほんとうは、話の滑り出しからして突っ込みどころのある状況があふれている。それなのに、当たり前のことのように納得させてしまう筆の勢い。
ここを納得してしまったら、中盤からどんどん明るみになる荒唐無稽で奇想天外な設定だって、心のどこかで突っ込みつつもすんなり受け入れてしまって当然だ。

物語はところどころにアクションと青少年の懊悩を挟みつつ、中盤から一気に急展開を迎えて、弟くんの疾走とともに終盤へ運ばれる。
そして最後は必ず肉弾戦で締める。なにがなんでも肉弾戦で締める。
終盤の応酬の中に現れる、キーワードのたたみ掛け。その摩擦から熱が高まって繰り出される、最後の一撃が熱い。

ただひたすらに爽快なアクションノベルというだけではない。
頭に被ってちょうどいいぐらいの大きさじゃないかな、などなど姉のパンツその他諸々のことで悩んでしまう弟くんのくだりがあるからこそ、そして序盤の語りがあるからこそ、最後の最後でニヤッとしてしまうおまけまでついている。
(※弟くんは変態ではありません。たぶん)

ジェットコースターどころかヘリに飛び乗ってスタントアクションするようなエンターテインメント、それが『マー・フィーの法子さん』。
スカッとしてクスッとしてニヤッとしたい人に、ぜひお薦めしたい一冊だ。


発行:クロヒス諸房
判型:文庫版 204P
頒布価格:600円
サイト:クロヒス諸房

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