現代異景


 どこかに集められた男女が一人三話の怪談を語る。異形、異相、異音、そして異形。現代の片隅で語られた怪談の中に潜む虚構と真実の織る、異様な風景を描き出したホラー連作。

sanka


 映画が割と好きなんだけど、ホラーだけは見ない。何故なら怖くないからだ。怖くないのに気持ち悪くて単にびっくりするだけの仕掛けが延々と続いて退屈だから。叫び声が突然したら誰だって怖いよ。いきなり異相が大写しになったらびっくりするし、変な体制で階段なんて降りられちゃったら怖いというより気持ち悪い。だからホラー映画は見ない。
 その代わり怪談は好きだ。解決なんてしなくてもいいんだ、怪談だから。言いたいことだけ言って「何故なのか」なんて解決しなくていい。後からああいうきっかけがあったらしいよって聞いて背の一部が鳥肌たったりするような、そんなさりげないものでいいんだ。

 そういう意味でこれはよく出来ていると思う。素晴らしい気持ち悪さ、素晴らしい薄気味の悪さ、素晴らしい後味のえぐさ。気持ち悪い、いい意味で。異形の描写もリアルかつシュールで読んでいてゾクゾクする。
 一人が三話ずつ語って次の人へとバトンされていくのですが、バトンする描写もなくて単に話が羅列されているのだと思って読んでいたのですが、最後の方で仕掛けがあることに気付く。こう来るのか、という驚き。

 それが無くても成立するのに贅沢だなぁこの本。あんまり本の中身以外のことは書かないようにしているが、頒布価格も200円と馬鹿安く、そういう意味でコスパが非常に良かった。ホラー好きな人には絶対に読んで欲しいのだけど、実は純文学さんへおすすめしたい本。綺麗なものを小綺麗に描写するのは簡単なんだけど、汚く得体の知れないものを描写するには技術が要る。きっと参考になると思います。


発行:MATH GAME
判型:A5 136p
頒布価格:200円
サイト:MATH GAME

レビュワー:小泉哉女

前の記事

マー・フィーの法子さん

次の記事

春日山幻想怪奇譚