おてんば魔女と僕


スコットランドの片田舎に引っ越してきた13才のハルは、ある日森で人参色の髪をした魔女見習いシーダーと出会う。シーダーにからかわれながらも決して悪い印象ではないハル。そんなある日、学校の友達と幽霊探検に出かけた森でハルは友達とはぐれてしまうが……

 かわいらしい。全体に流れる牧歌的で暖かな空気も、見習い魔女の明るく直線的な気性も、友達とのほほえましい友情も。ファンタジーではあるが、舞台は現代のスコットランド。けれど、こんな田舎がまだ残っているのかというノスタルジーさえ感じる憬れの描写が続く。イェイツの詩なんか思い出しちゃったりして。作者も後書きで言ってるとおり、「恋と魔法と妖精の牧歌的幻想譚」なのだ。

 ハルは少しおっとりめだけど優しく誠実な少年として描かれ、シーダーはあくまでも跳ねるように生き生きと愛らしい。幼い初恋かそれ未満なのか、二人の間に芽生えた特別な空気も、明るい日射しの下の、恋の始まりを予感させて初々しさに胸が膨らむ。

 ジュヴナイルとはこういう本に与えられる称号なんじゃないだろうか。大冒険も悪い魔法使いも伝説の剣も無いけれど、確かに少年少女の淡い時代の幕開けを感じる、そんな本。

 児童文学にも通じる優しい雰囲気。少し肩の力を抜いてナイトキャップのように楽しめば、いい夢が見られそうな本。癒やされたい方に。


発行:Dark Dancer
判型:A5 32P 
頒布価格:200円
サイト:Emmain Macha

レビュワー:小泉哉女

前の記事

銀のタマゴ(1)

次の記事

マヤ