銀のタマゴ(1)


 ドラゴンをテーマにした短編集。美女をあさるようであさらない奇妙な竜の秘密「Ms.Dragon」、竜の血を引きながら同胞殺しの異名を持つ戦士ウォルフとスリの少年クリードの貴種殺しの一幕「Volf the Dragonbone」、拾ってきた竜のタマゴを育てようとする少年の前にある日、不思議な転校生が現れる「銀のタマゴ」3本収録。

sanka

 どれも読後感が違う。1冊で3冊読んだ気分だ。なんてお得なんだろう。1本目の美女漁りの竜はオチもそうだがラノベ風。オチもちょっと盲点というか虚を突かれてなかなか楽しい。緑茶が紅茶になっちゃうくだりとか、ちょっとしたディティールや小道具の取り出し方が上手いんだと思う。

 2本目の「Volf the Dragonbone」は打って変わって本格ファンタジー。戦闘シーンに迫力があり、クリードの茶目っ気のある造形が緩急にもなってテンポ良く読み進められた。竜血の力とそれに群がる胡散臭い宗教家を名乗る連中と、そして竜種の男二人。内容の割に短くまとまっているので細かなあらすじまでは解説しないけれど、呪われた血、同胞殺し、秘密めいた生け贄の儀式に父竜殺し。まだまだ奥行きがありそうだと感じるのだけど、触れずに通り過ぎていく沢山のキーワードについ、他の話も読みたいなぁなどと感じてしまう。これ、続くんですかねぇ。話はもちろんちゃんと終わってるのだけど、クリードの過去も気になる。

 3本目「銀のタマゴ」これだけ少しSFっぽい。一人称の「僕」視点で語られる日常は学校や家庭のありふれた光景の描写で、「僕」が拾ってきた銀のタマゴの成長を心待ちにしつつ読み進めていくと、ある地点でがらりと景色が変わる。やられた。そしてキュン死するかと思った。誰かを支えるということ、それが何と引き替えなのかということ。語られる内容はヘヴィなのに、最後は光感あるラストへ落ち着いてくれたのも良かった。友情とひとくくりにしてしまうとまた違う気もするし、けれどそのほかのカテゴリにわけられる愛じゃないしで説明は難しい。けれど言葉や種族を超えてそこにある絆を感じられて心に残る作品。

短編集なので、どれもさっくり読める短さ。ファンタジー好きとして、同じファンタジー愛好者へ是非にとおすすめする本です。


発行:BLEMEN
判型:文庫版 116P 
頒布価格:400円
サイト:BLEMEN

レビュワー:小泉哉女

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