Shes/s


1篇目はファンタジックにして苦い、少年のころから続く想いの物語。
2編目は堅気じゃない女カメラマンが、女の子を拾うハードボイルドなお話。

sanka

 三日月理音さんのShes/sの感想です。
 この物語は昨年11月文フリの文学フリマで無配され、現在はPDF配布されている物です。2編の短編によって成り立っています。
 まず第1編目

「構成素」
 これは「考える」とか「思考する」というより「感じる」物語だと思います。
 老人の学者の心にある、「誰か」。
 それを学問と云う分野に思考転換し、そして人生をかけた男の姿。
 その思考転換を恋愛と位置づけ、辛くなる老妻。
 それがただの学生との会話で見事に表現される。
 Excellent!
 老妻たるメアリーを話の主軸に沿えなかったのが、大変素晴らしい事だと思います。
 老妻と老人の恋物語にしてしまえば、この小説は大変陳腐なものになっていたでしょう。
 ファンタジー好きな方が、純文学の入門書にするのにも向いていると思います。

 第2編目
「日曜、午後」
 煙草のラッキーストライクを、あぶれ者が敬遠する理由が分かりますか?
「大当たり」だからです。
 つまり、ドンパチして弾に当たって、おっ死ぬのを避けるゲン担ぎですね。
 この物語に出てくるDDはれっきとしたあぶれ者です。
 しかし、吸う煙草はラッキーストライク。
 これでぐっと来た方は多いかと。
 ストーリーはお見事と云えるハードボイルドな「女がママになるまで」の小説です。
 危険な鉄火場をあえて好むようなカメラマンなおばさん、DDが、ずた襤褸の少女を拾って守って奮闘する話。
 すごーくネタバレしたいのですが、そこは言わぬが花ってもんですよお客さん。
 ただ、「「女がママになるまで」の小説かあ、ほのぼのとはんわりとした話なんだろうなあ」って人と「虐待をしていた女が真実の愛情に目覚める話なんだろうなあ」って予想した人は。
 期待をがっこんと外されること請け合い。
 いわゆる「萌」要素がない女ハードボイルドとアンダーグラウンドに惹かれる方は、是非ご一読を!


発行:HONKY-TONK
判型:A5 36P 
頒布価格:無料配布
サイト:Bar道化倶楽部

レビュワー:浮草堂