ヘヴンズ・ドアー~あなたの撃鉄は起こせますか?~ (『断片集』収録)


強盗でしくじって死んだはずの主人公・ルーカスは気づくとヘヴンズ・ドアーなる店にいた。
混乱するルーカスに店主サマンサが「ここはヴァルハラ。天上の戦場よ」という衝撃の言葉を発する。
なんとヴァルハラでは崩壊したはずのソ連があり、アメリカ領と戦争を繰り広げているという。
店主サマンサはルーカスにアメリカ領で兵士になるか、ソ連でKGBのスパイになるかを選べというのだが……

sanka

本の杜3で配布された『断片集』そのなかの一篇をご紹介する。
『ヘヴンズ・ドアー~あなたの撃鉄は起こせますか?~』である。作者は浮草堂美奈。『ヘヴンズ・ドアー』本編の掲載媒体はWEBである。
正直に言おう。
舐めていた。
なめてかかったら痛い目にあった。
舌打ちをかまして、しばらく考え込んだ。
断片集の縛りであり、もっとも特徴的な原稿用紙10枚以内。
その4000文字をフルに使って、自作品の『ヘヴンズ・ドアー』シリーズの入門編を書いていた。
ここにやられた。
4000文字というと多すぎず、少なすぎずを考えねばならなず、適量が難しい。
それをいとも容易く、あっさりとやってのけた。
この話は本当にヘヴンズ・ドアーへの入り口なのだ。
アメリカンカントリーのチープさ、エミリーをはじめそれぞれ癖のある店員や美麗な店長サマンサの明らかに〝っぽい〟感じ。
そしてにやっとする表現――たとえば、〝自分の黒人特有の肌がモノクロでもはっきり分かる写真。〟
〝「人が死ぬのに、理由なんて必要ないのよ。人は誰でも死ぬわ。そして、人を一人でも殺したら、いずれ誰かに殺されるという、死のリングに参加しないといけないの」〟
ほら、もう、〝っぽい〟じゃないですか!
この〝っぽさ〟のチープさが見事に昇華されているんですよ。
これが浮草堂テイストなのです。

ヘヴンズ・ドアー入門者にぜひおすすめしたい一篇。
「ただいま清掃中。御用の際は呼び鈴を鳴らしてください。ヘヴンズ・ドアー」
今のところ掃除中のようだから、呼び鈴を鳴らして中に入ってみるといいかもしれない。
もっともどちらかを選択することになるのだろうが……


発行:断片集実行委員会
判型:文庫 142P 
頒布価格:無料配布
サイト:断片集実行委員会(企画)キクムラサキ式(著作者)

レビュワー:三日月理音

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