看装乙女 ベルムナース

arasuji
 北佐舞司はある晩、助けた女性に心惹かれたことから、秘密組織との闘いに巻き込まれる。
 装備を与えられて変身した姿はさながら看護婦!?
 普段も女装を強いられることになる舞司だが、その彼女・レンへの想いと、彼に託された『鍵』から、戦いと女装の日々へ踏み込んでゆく。
 そんな中、レンに危機が及び――
(作者様サイトより転載)

sanka

kansou

 白衣の天使を模した戦闘装束身に纏い、戦場を駆けるその人物は――男の娘?! 惚れた人のために変身して闘う道を選んだ、主人公・北佐舞司の物語。TS+特撮物がコンセプトとのことでキャッチー感120%なのですが、芯はどっしり一本通っています。単純に、闘う男の娘という掴みだけで描かれているのではなく、“女装”するとはどういうことなのか?そこにある葛藤とは? 自分らしくいる、とは? など、現実問題としてのTS(トランス・セクシャル)を考える切っ掛けを、真摯に提示されていると感じました。
 舞司くんはひょんなことから闘いに巻き込まれ、想いを寄せる女性・レンのために闘う決意をしますが、周りがあれこれ画策するもので、なぜか日常生活でも女装をすることに。この女装描写が非常に細かくて、素晴らしいです。着用するもの(無論下着含む)からメイク、スキンケアや日々のさりげない動作や言葉遣いなど、もう大変細かい。作者様の本気が伺えます。
 舞司くん自身は「それでも僕は男です!」と頑なに言いつづけます。物語終盤になるにつれて女装自体に抵抗感はなくなるものの、最後までその想いは変わりません。TS、というと、どちらか一方の性から一方の性へ、根本的に変わってしまう、というように考えてしまいがちになりますが、舞司くんのようなスタンスもあって、それがその人の個性なんだ…と改めて認識させられました。作中には、“性”のあり方について極端な意見をもつ人物もいて、現実世界と同じように様々な視点が存在します。そんななか、「中途半端」と言われてしまいながらも自分のスタンスをしっかり保つ舞司くんと、それを受け入れるレンさんの絆に、思わず涙腺が緩んでしまいました。
 と、なんか堅苦しいことを書いたんですけども、作中はそこまで重苦しくなく、特撮物特有のテンポの良さが遺憾なく発揮されており、すんなり読むことが出来ました。女装描写も細かいですが、特撮描写もガチです。ナース、という設定が絶妙に織り込まれていて、感嘆しっぱなしでした。
 キャラクターも魅力的で、読み終わる頃にはみんな愛しくなってました。メイちゃんが幸せになる日がきたらいいな…。あ、ホーソンは凛さんにタックされたらいいよ。
 ほら、特撮物には追加戦士がつきものですし、ね? ぜひ続編を楽しみにしています!

data
発行:亜細亜姉妹
判型:文庫(A6)234P 
頒布価格:500円
サイト:あずき色の彗星
レビュワー:世津路 章

次の記事

ロータス