ワスレナウタ

arasuji
かつて歌姫の座を競った少女ふたり。
選ばれたのは『天使の声』を持つレシカ。
ジラはレシカの侍女となり、十年の時を過ごす。
抱えた想いは秘め続けるつもりだったが、
レシカの婚約を機に、ふたりの関係に変化が訪れる。

息が詰まるようなガールズラブ・ノベル、衝撃の最終章。
(作者様特設サイトより転載)

kansou
歌姫の座を巡ってかつて対峙したふたりの少女、その軌跡を描いた最終章。前二作でも際立っていた文章表現、心情描写の繊細さはさらに磨き抜かれ、フィナーレに相応しい輝きで作中を彩ります。最後までモチーフである“歌”の織り込まれ方が絶妙で、正しく《歌姫》物語。
束の間の逃避行、別離、身を焦がすほどの未練に、突き付けられる終止符。その末にジラが辿りついた結論――これはもはや物語どころではない、と思いました。この三冊の本の中にジラという人間が、確かに実在している。文章を追っているうちに、彼女の感じた絶望が、希望が、切望が、自分の身の内にありありと流れ込んでくるのを感じました。体温を持つ人間の、清濁が常にうつろうあの生々しさが、一語一語から伝わってくるのです。だけど醜悪であるはずの感情すら目を離せないのは、作者様の筆力と、なによりジラという人間が切実に生きようともがいているのがわかるから。だけど、それゆえに、(それはもしかしたら作者様の意図しているところとは違うのかもしれないけど、それでも)私は、彼女がレシカに「ありがとう」を言えるようになる、そこまでを見てみたかった、と思ってしまった。それをしたらあまりにも出来過ぎな、ただのありふれた物語に堕してしまうのかもしれないけれど、それでも。
前作『愛の歌』を読んだ時からなんですけどやっぱりアルノルト様がすきで、それは彼はレシカを“レシカ”として愛していたんじゃないかな、と思えるからなんだろうな…お針子のノーマも…。ジラは嫌悪していたけど、あの申し出はレシカのことを愛していたからこそ、彼が心を振り絞って出した結論に思えて仕方ないんだよ…ええ、すきなキャラひいきですよ…。
あとミルクロク、天使過ぎか。エドヴィ様、魔王過ぎか。最終章で気になるキャラがわっと出てきたので、ぜひね、スピンオフを、ね?(チラッチラッ
レシカについては…ただ一言、さいごのあの一言だけが、彼女の真実のような、そんな気がする。山ほど書いた手紙より、なにより、あの一言だけが。だって彼女と一緒に歌えるのは、あなただけだったんだよ、ジラ。
とりとめもなく、感想が次から次に湧き出てくる。圧倒される三部作でした。お疲れ様でした! 次回作も楽しみに待っています…!

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発行:冬青
判型:A5 132P
頒布価格:1000円
サイト:冬青(ワスレナウタ-特設サイト)
レビュワー:世津路 章

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