『僕とQ』『Aとわたし』

arasuji
『僕とQ』
アレな自意識とマシンガントークが標準装備の「僕」が主人公の、大二病的恋愛ものです。「僕」は高校時代からの憧れの相手Qと大学で再会します。二人は同じ授業を受けることになり、ランチに行ったりお茶したりして少しずつ仲良くなっていきます。
この本にはちょっとした謎かけ(?)があるのですが、答え合わせは「Aとわたし」を読んで下さればと思います。

『Aとわたし』
「僕とQ」の答え合わせ的位置づけの本です。
お話的には「僕とQ」の後日談で、主人公「わたし」とその恋人であるAが温泉旅行に出かけるという内容です。
巻末に「自作における異性装キャラの振り返り」と題した自作品の解説が載っています。

kansou
高校のときの同級生・Qと大学で再会した“僕”視点から描かれる『僕とQ』、そして紆余曲折を経て付き合うことになったふたりのその後をQの視点から描いた『Aとわたし』。コミカルに、情感(=「あー、それあるあるw」)たっぷりに描かれるキャンパスライフと、ふたりの真摯な心の交流がどこまでも胸に響く作品です(それぞれ別冊ですが2作1セットなのでぜひご一緒に)
特徴的なのがこの一人称。『僕とQ』において“僕”自身が白状している通り、この人大分面倒くさいです。オタクなら3人中2人は自分を顧みて「ああ…うん…」ってなる感じに面倒くさいです。それはもう凄まじいリアリティです。それをサクサク読めちゃうのは各所に散りばめられたユーモアセンスで、これも惹きつけられる要因になっています。そしてこの一人称こそが本作中最大のギミックに繋がっているのですが、それは読んでみてのお楽しみ。そしてそのお楽しみは『Aとわたし』でもばっちり生きています。Qと“僕”(=A)とは一体どういう人物なのか? それは読
むことでしか真に味わうことができません。この新鮮な驚きと心地よさは、漫画でも映像でもなく、正しく小説だからこそ成し得たものです(私はこれこそ“純文学”だと思うのですよ…)。
その面倒くさい“僕”がQと再会し、ふたりの距離が少しずつ深まっていきます。ジャンルで形容するなら、恋愛モノになるんでしょう。でも、「授業が一緒」「お昼一緒に食べた」「デートした」「ときめく、好き!」というのが要素として描かれているのではなく、“僕”がQを想う真心がきちんと事実として根底にあって、そこから湧き出る気持ちに溢れていて、でも自分が面倒くさいことを自覚しているから上手く伝えられなくて、勇気もなくて――っていう、これが、これが! いいんですよ!!
誰かをすきになったとき、果たして“僕”のようにここまであけすけに心を曝せるかしら…と自省しながらも、でもこんなふうに人を、自分を愛したい、そう強く想う物語でした。

(※作者様サイトには『僕とQ』は残部なしと書かれていますが、再版され第二十回文学フリマにはお持ちになるとのこと! 少部数での発行とのことなので、ぜひこの機会に!)

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発行:アリスチルス月面研究所
判型:A5 『僕とQ』:40p、『Aとわたし』:20p
頒布価格:『僕とQ』:200円、『Aとわたし』:100円
サイト:アリスチルス月面研究所
レビュワー:世津路 章

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