文加のまちには(2)
文加のまちには、人ならざるものが棲んでいる――。
「今日ね、あたしくもの巣に引っかかっちゃったの」
娘が告げたこの言葉を発端に、幽霊が、鬼が、座敷童子が繋がっていく。それらは時にざらりと肌を撫で、人の胸に苦さを残す。北の山の谷間にある地、文加に住む人たちと『不思議』が交錯する短編集。『蜘蛛の巣の妙』、『喉元過ぎれば冷たさを忘れる』、『かつのみ』、『終雪』、『文加のまちには』の5本を収録しています。
※著作者様サイトより引用しました。
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文加のまちには
人と、人のそばに存在する怪異、あやかし。けれど、人はいつしかその存在を忘れてしまうものなのかもしれませんし、たとえ記憶していたとしても、その頃の感覚を「リアルなもの」として感じられなくなるのかもしれない……。
全体を通して、そんな、妙に懐かしくも一抹の寂しさを感じる短編集だと思います。特に子供たちの視点で描かれた「喉元過ぎれば冷たさを忘れる」、「終雪」には懐かしさとほろ苦さが強く感じられた気がしました。
そして、人が忘れたり感じられなくなる、ということが「あやかし」からはどう見えるのか。そんなあやかしの視線を終章である「文加のまちには」で垣間見て、人とあやかしの違いと、それでも交わらず存在し続けることもできない彼らのあり方を切なく思うのでした。
決してはっきりと何かが起こるわけでもなく、ただ「そこにいる」あやかしと人が織り成す物語。一つ一つ、噛み締めるような心持ちで楽しませていただきました。
追伸:幸虎めっちゃかわいいです。