手向けの花は路地裏に

arasuji

〈蒸気都市〉帝都は世界随一の規模を誇る大都会だ。
街は科学の恩恵に支えられ、人の暮らしには蒸気機関が欠かせない。
だが、こうした大都会には往々にしてひずみが生じやすいものである。
それはときに貧富の差の拡大という形で路上生活者を生む。
それはときに非合法組織の隆盛という形で人々に牙をむく。

愚連隊〈戎〉の下っ端の少年、早駆けはスリに失敗したすえに、憐みを投げかけられて十円金貨を恵まれる。一枚の硬貨は、少年を熱く暗い思い出へといざなう。
少年を愚連隊に追いやった全てのはじまりへ。
再燃する黒い男の恐怖。思い出にしみついた怯え。
そして乞食同然の扱いを受けた憤り。
それらを振り払おうとした早駆けは、度胸を示すために喧嘩を売る。
こうした軽率が、帝都最悪の組織〈結社〉の尖兵を招いてしまうとは考えもしないままに……
   *

〈戎〉を傘下に収める非合法組織、誠道会は、落ちぶれつつある自組織を盛り返すため、信越商会の軽井沢に商談を支援をあおぐ。しかし軽井沢のふとした思い付きから、誠道会ではやがて内部抗争が勃発することとなる。
〈結社〉の幹部《機関卿》が動きはじめているとも知らずに。
   *

人の数だけの思惑を乗せた歯車が不協和音をたてて回り、全てを容赦なく巻きこみ、自壊していく。否応なく引きずられていく早駆け。彼が行きつく先は果たして――。

帝都で起こった『《正義の人》騒動』を描く長編

(Text-Revolutions Webカタログより転載)


kansou
とにかく蒸奇都市倶楽部さんの小説の世界観が好みすぎて……!
400頁近い大作ですが、緻密な文章で描写される世界観とストーリーに夢中になって一気に読んでしまいました。登場人物もみんな一癖二癖ある、個性的な面々でした。個人的には機関卿がとても気になります。あと、決して善人とは言えない人物が多く登場する中で、太陽のようにあたたかく輝く、探偵坂下君の安心感が尋常ではない。

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発行:蒸奇都市倶楽部
判型:文庫(A6) 384P
頒布価格:1000円
サイト蒸奇都市倶楽部 電子広報
レビュワー:藤ともみ