二枚の結婚写真
時代は昭和初期、日本は戦争へと突き進んでゆく。
東京で生まれた一人の女性千恵子は、自分の意志では抗えない時代の流れに翻弄されていた。それでも強く生きた女の生涯。
荷物を整理していて見つかった2枚の結婚式の記念写真。その2枚の写真に秘められた想いとは……
これは人々の語る言葉から紡いだ一つの物語、事実を元にしたフィクションです。
(第7回Text-Revolutions Webカタログより転載)
作者であるほたさんのおばあ様の半生を元に書いたと言う作品です。
これも戦争の悲劇なのだろうか? 二枚ある結婚写真を紐解くと、そこには戦争のために複雑な運命をたどった千恵子さんの半生がある。
彼女の半生は決して明るく楽しいものではない。なぜなら時代は戦争の真っ最中だからだ。工場に取られるのは不憫だからと父が選んだ結婚相手。千恵子さんは父親の心情を思い文句も言わずに嫁ぐ。しかし、夫は結婚して1週間後には戦地に向かう事が決まっており、夫婦らしい事は何もしなかった。それを知っていて、なおも嫁いだ千恵子さんの心情はいかばかりだろうと思う。
頼るべき存在の居ない嫁ぎ先でも千恵子さんは一所懸命に生きていく。
残された家族のために実家の物を売って食料にかえるあたり、この時代の女性の強さとしたたかさを垣間見た。そして、手も握らなかった旦那さんが戦死したと言う報が届き、千恵子さんは再び人生の選択をせまられる……。
詳しい事は本を読んで欲しいと思うのですが、個人的に彼女はその時その時の決断を自らしたから後悔をしなかったのだろうと思う。
二枚の結婚写真を大切に持っている事に色々思いを馳せる。
最後のページ、作者さんのお婆様の印象は決して幸福であると言えない人生を歩みつつも、懸命に生きた千恵子さんの横顔が見える気がする。
強く、時代に翻弄されつつも、強く生きた女性の顔。
読んでよかった作品。
発行:夢花探
判型:A6 29P
頒布価格:100円
サイト:夢花探
レビュワー:夜海月亭よーぐる。